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NetflixとDisney+の争いをみると、サブスクそのものは差別化ではなく、サブスクリプション同士の競争が始まっていることを実感します。
当社では、サブスクリプション・ビジネスの検討をされる方に、まず大きく二つのビジネスモデルがあるとお伝えしています。
ひとつは、自社で開発した商品やサービスのみを提供するメーカー型サブスクリプション。トヨタやデンソー、サントリーや明治のような製造業だけでなく、マイクロソフトのようなソフトウェアメーカー、ディズニーランドや全日空のようなサービス業も含みます。
一方、対となるのは、流通型サブスクリプション。外部の会社や個人が生み出すアイテムを集めて定額で提供する、AppleミュージックやSpotify、エアークローゼットやラクサス、クックパッドのような企業を指します。Netflixも流通型ですが、オリジナル作品を量産しているという意味で、メーカー型の要素も併せ持ちます。
詳しくは別記事『3つの視点でサブスクリプションビジネスを斬る!』をご覧ください。
メーカー型サブスクリプションには、2種類の競争相手があります。
1つは、長年競合してきた他メーカーのサブスクリプションサービス。今は存在しなくても、自社でサブスクリプションを考えられてるなら、競合も同じことを考えているはず。競合メーカーもサブスクを出してくる前提で、戦略を組み立てるべきです。
もう1つは、流通型のサブスクリプションサービス。自社製品も競合製品もまとめて提供する、Netflixのような有力な企業が国内もしくは国外から現れた場合に、どのような戦略を取るのか。いま、そのような競合相手がいなくても、いずれ現れる可能性がどの程度あるのか、現れないとすると、どこに要因があるのかを見極めておかなければなりません。
メーカーであれば、流通型サブスクサービスには、単に商品を提供しなければ良い、という考え方もあります。実際ディズニーは2017年8月に往年のアニメからスターウォーズシリーズまで、Netflixから引き上げると発表しました。ストリーミング技術を持つ企業の買収に関するThe Walt Disney Company社のリリース内で、Netflixから作品を引き上げる戦略シフトに言及しています。
With this strategic shift, Disney will end its distribution agreement with Netflix for subscription streaming of new releases, beginning with the 2019 calendar year theatrical slate.
しかし、これは自社商品をより広くお客さんに届けるという目的からは矛盾してしまう。実際2020年9月公開の新作ムーランはDisneyプラスで限定配信されます。私も長くゲームをプロデュースしてきましたが、新作を出す場所が限定されるのは、作り手としてはかなり辛い。
記事で触れられてませんが、NetflixにもHulu(ディズニー傘下)にも出さないのが、戦略の見どころ。月額サブスクに追加料金払って、どれだけの人が観るか、注目です。https://t.co/YBaQuswF6Q
— ライブコンピューティング株式会社 (@livecomputingjp) August 26, 2020
Microsoftオフィスなど継続利用するサービスと、Disneyのように次々と新商品を提供するサービスは、同じサブスクリプションでも競争戦略は大きく違ってくるはずです。
相手が流通型サブスクであれ、他メーカーであれ、差別化の軸には以下のようなものがあると、私たちは考えています。
1つは、低価格。商品提供元だからこそ、実現できる価格ってありますよね。旅館やホテルが自社サイトで最安値を出すのがそうです。ただ、メーカーだから低価格を出しやすいとは限らない。実際Disney+はNetflixほどの会員数が獲れるかわからず、安易に低価格化に踏み切れません。物流コストなどスケーラビリティが影響するビジネスも、メーカーだけでは規模の効果が出せず、お得感で勝負は厳しい。
2つめは、限定商品。例えば、小売店に一律で卸すほどのボリュームが見込めなくても、ニッチな商品を自社サイトだけで提供するやり方です。これは何もサブスクに限らず、日清食品などのメーカーECでもみられますよね。ただ、Disney+のように、広く客を集めたい商品を自社限定としてしまうと、販路が限られてしまうという問題もあります。
3つめは、商品に付随するサービス。流通型サブスクには自社商品を提供しつつも、その使い方を提案するコンテンツや、お客さんにあわせたカスタマイズサービス、自社会員だけの特典をつける方法もあります。
4つめは、製造業における、テーラーメイド商品。3Dプリンターはどんなに大量でも、1つだけでも、ユニット単価は大きく変わりません。製造業の経済原理を変える技術ですが、ここで欠かせないのが顧客ごとの情報。メーカーECであれ、サブスクリプションであれ、お客さんと直接取引しないことには、設計図すら作れません。
『3Dプリンター技術を活かすには、メーカー直販ECまたはサブスクリプションが必須になる』、というのが弊社の仮説です。これは語ると長くなるので、別記事にまとめます。
5つ目は、ブランドを軸にした、マルチ展開です。例えばディズニーは、映像だけでなく音楽、グッズ、テーマパーク、ゲームと多くの分野に進出しています。自社で手掛けるものもあれば、ライセンス提供もありますが、これをDisney社のサブスクリプション・サービスとして一括提供してもいい。動画配信という競争の枠に、自らを縛る必要はないはずです。ここも、別記事で詳しく述べたいと思います。
いずれにしても、メーカー同士のこれまでの競争に加えて、取引先だった卸や代理店、思いもよらないところから登場するベンチャー企業など、サブスクリプションの時代はエンドユーザーを奪い合う、激しい競争になることは間違いない。しかし、差別化の5つ目に挙げたように、競合相手と同じ土俵に無理に乗る必要もない。
大切なのは、自分たちでモノやサービスを生み出せるからこそ、実現できること。オリジナリティあるモノやサービスを生み出し、それとうまくマッチした収益モデルがあれば、自ずと道は拓けるはずです。