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クラウドゲームのよいところは、異なる端末を持つ人同士を、一つのゲーム世界で結びつけられるところです。スマホゲームと家庭用ゲームのプレイヤー同士をつなげたり、プレイヤーとプレイ動画視聴者をつなげたりすることで、ゲーム体験も市場規模も成長する。
しかし、このようなゲームをどう設計したらよいのか?その答えはまだわからず、見つけていくしかありません。
そのキーワードの1つは、『非対称性』です。
GoogleのStadiaもMicrosoftのXbox Cloud Gamingも、端末を問わず同じゲームがプレイできます。音楽や動画のように、1人で端末を切り替え続きを楽しむこともできます。しかし、これだけではつまらない。
スマホのヒット作と家庭用ゲーム機のヒット作が大きく違うように、ゲームは端末によって操作も内容も大きく変わります。この異なる遊びを、1つのタイトルやIPで結びつけるところに、ゲームならではのストリーミングの可能性があるように思います。
参考記事:『ゲームストリーミングの可能性(1) ゲーム体験とゲーム市場の融合』
さらにプレイ動画を見ている人がゲームに参加することも考えられます。プレイヤーとしてのスキルはなくても、アイテムを置いたり罠をしかけたりできる。この場合も、視聴者をどのように動機付け、どのような情報や手段を与えるのかといったゲームデザインが個別に必要です。
参考記事:『ゲームストリーミングの可能性(2) Youtubeの中抜き』
つまり、異なる端末のプレイヤーを結びつけるにせよ、プレイヤーと視聴者を結びつけるにせよ、ゲームストリーミング専用に開発されるゲームはおのずと多面的なゲーム設計、つまり非対称になる、というのが私の仮説です。
もっとも、ゲームの非対称性は新しい概念ではなく、例えばWiiUのコンセプトの一つとして任天堂が提示していましたし、今も『Dead by Daylight』など非対称な構造を持つタイトルはたくさんあります。
クロスプラットフォームと呼ばれる、スマホでも家庭用ゲーム機でも遊べる『Minecraft』や『Fortnite』のようなタイトルが出てきています。これらは、自分が持っている端末で人気ゲームが遊べるという意味で、価値がとても高い。
けれど、タッチスクリーンとコントローラーそれぞれに適した遊びを一緒に、同時に楽しめるタイトルは、あまりみられない。ここに大きな市場機会があるように思うのです。
1つのIPからアニメやコミック、グッズなど他のメディアに展開する例は多く見られます。しかし1つのIPから複数の遊びを生み出すのは、独特の難しさがあります。
私はこれを『ポケモンタイピングDS』で少しだけ、経験しています。というのも、ポケモンというブランドを活かしながらも、キーボードという入力方式で本編とは違う遊びを生み出さなければならなかったからです。
派生タイトルと呼ばれるゲームは、元のゲームから何をとり、何を切り捨てるか、判断がとても難しい。すべてを引き継いでは違いが出せませんし、すべてを切り捨てては同じIPとは言えなくなるからです。このタイトルでは、ポケモンを集めるところに特化し、育てたりトレーナー同士でバトルしたりする要素は省くことになりました。
一方、元のゲームに何かを足すことも、場合によっては必要です。作ろうとしているあそびの核はどこにあり、IPから借りてくるだけでは完成しないパーツはないか。このタイトルでは、「タイピングボール」という新たなポケモンボールを考案し、ポケットモンスターシリーズにはない設定と機能をもたせることになりました。
とはいえこれも、本編シリーズには何ら影響しない、単発のタイトル。ゲームストリーミングで本編シリーズと派生タイトルがそれぞれ影響を及ぼすようになると、どんな世界が広がるのだろうか。そんな想いが原点にあるのかもしれません。
先日、久しぶりに『ポケモンを創った男 田尻智』を読んでいたら、「ポケモンは新しいゲームをつくったというよりは、新しい世界観をつくったということだと思う」と田尻さんが話す箇所に目が止まりました。
新しい世界観を作り、そこにいろいろな遊びを足していく。さらに遊びにまつわるコミュニケーションも、足していく。その仕組みに適したビジネスモデルを作り上げる。
クラウドとストリーミング仕組みを活かした広い意味での遊びとビジネスが、まだまだこれから登場してくるはずです。