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2019.08.01
サブスクリプション戦略論

実はテストマーケしていた Adobe サブスク導入戦略

female designer with mac

何もないところからのサブスクリプションビジネス立ち上げと、既存事業のサブスクリプション移行は、まったく違う話です。

Adobe社は2012年当時、3000億円規模のパッケージビジネスからサブスクリプションに移行しました。今やサブスクリプション売上は8000億円(2018)に成長しています。

商品を販売する既存事業を持つ多くの企業にとって、サービス化とその一つの形であるサブスクリプションへの移行は大きな課題です。基幹ビジネスを削ってでもサブスクリプションに移行したAdobeの当時の状況と戦略を、振り返ります。

リストラとFlashの敗北

2011年のAdobeは、長年主力製品の販売数が伸びない状況にありました。11月には750人のレイオフを発表同時にスティーブ・ジョブズから批判されたFlashも開発停止しウェブサイトのアニメーションや音楽再生の分野で敗北します。

この時期、Adobeは明るい雰囲気ではなかったはずです。
アップル社の公開レター(英文):Thoughts on Flash

2011年11月、サブスクリプションの料金プランを発表

そんな中、Adobeは主力製品を定額で利用できるサブスクリプションサービスを発表します。
ADOBE 2011 FINANCIAL ANALYST MEETING

月49ドルから月69ドルでフォトショップ含む全ソフトの最新版を提供。Creative Cloudと名付けられました。複数のパソコンでファイルが同期でき、質問できるコミュニティ機能を打ち出しました。

彼らが何をアピールしたかったのかがよくわかる、サービス開始当初のプロモーションビデオをご紹介します。

半年前からサブスクリプションを試していた

実は発表の半年前から、Adobeはサブスクリプションを試していました。2011年4月に発売したCREATIVE SUITE 5.5で、旧来のパッケージ販売と並行し月29ドルからフォトショップを利用できるなど、月額定額制を導入していたのです。

このトライアル結果のポイントを、Adobeは戦略発表の場で紹介します。

サブスクリプションで新しいユーザーが増えた

彼らが強調したポイントの1つは、定額ユーザーの38%がAdobe製品を初めて使うユーザーだったこと。10万円近くするソフトに手が出なかったユーザーが、月5000円であれば利用を始めてくれた、ということです。

増えたユーザーの実数をみないと、38%という比率が高いか低いかは正直わかりません。しかし、今と比べてかなり高めの価格にもかかわらず、新規顧客が増えたことは、停滞していたAdobeを勇気付けたはずです。

adobe analystMtg 2011 pricing

バージョンアップする人がサブスクリプションで増えた

もう1つAdobeがあげたポイントは、76%のユーザーがサブスクリプションでなければバージョンアップしなかった、と答えたことです。

仕事道具であるフォトショップやイラストレーターは、使い込むほど新しいバージョンへ移行する心理的なハードルがあがります。1本あたりの値段も高い。

同じ月額であれば、新しいバージョンを使おうとする人が増えるのは当然。ですが、7割を超えるのはAdobeにとっても驚きだったのではないでしょうか。真っ先にサブスクリプションを試すユーザーですから、ある程度比率が高いのは致し方ないことではありますが。

ソフトウェアサービスを提供する上で、古いバージョンが使い続けられるのは問題です。1つは互換性やサポートなどの対応コストが増えること。もう一つは、最新サービスを知らないまま解約する人が一定数発生してしまうことです。

料金プランは専門家から批判

発表した料金プランAdobeは当時、フォトショップの利用者団体やブログなどで、批判を多く受けました。

背景の一つにアップグレード割引の条件変更がありました。Adobeはルールを変更し、5,6年前のソフトを買っていれば最新版を割安で買えたのが、ここ2年くらいに買ったバージョンでないと、割引が受けられなくなりました。

おそらくAdobeはアップグレードのハードルを上げ、サブスクリプションへの移行を加速させたかったのでしょう。ただ今振り返ってみると、ルールは変えなくても、高額なソフトを古いまま長年使っているユーザーは、いずれ定額に移行しただろうと思います。

2012年4月 Creative Cloudサービス開始

ユーザーの批判とは逆に、サブスクリプションへの移行は株主には評価されました。2012年4月サービスを開始、半年後の決算では、12万6千アカウント。翌年は143万アカウントと順調に会員数が伸びます。

2013年5月 パッケージ開発停止

サービス開始から1年後、Adobeは思い切ってパッケージ商品の開発を停止。サブスクリプションに完全移行することを発表します。
出典:Adobe Accelerates Shift to the Cloud

これもユーザーから批判されました。

しかし、サブスクリプションは移行するなら中途半端にしないほうがいい。両方を並行すると、社内リソースは分散し、ユーザーも選択肢が増え混乱します。結果からみても、Adobeはフォーカスしてよかった。

Adobe 5年で売上倍増

サービス開始の翌年2013年、Adobeの売上は9%近く下がります。しかし2年後に回復、5年後に倍増します。

Adobe売上 2009-2018
出典:Adobe Financial Documents

この急上昇には、サブスクリプションの移行だけでなく、他の事業拡大などカラクリがあります。これは別記事でご紹介します。

業界標準だったからこそ成功したAdobeのサブスクリプション

9万円のソフトが月2480円で利用できるAdobeのサブスクリプション。月々の負担は下がりますが、しかし3年間払い続けると9万円になり、1本のソフトだけで見ると、さほどお得感はありません。

複数ソフトを使う方は、Adobe全ソフトが使えるプランが5680円なので、お得感はかなりあります。つねに最新機能が提供され、コミュニティやストレージ機能もあります。

しかし、これらは成功の一要因でしかありません。

現実をみれば、イラストレータやフォトショップは業界標準であり、取引先が利用していれば他社ソフトに簡単に切り替えはできません。操作に慣れた人ほど他製品に切り替えるハードルも高い。

Adobeと同じことがそのまま真似できるわけではありません。少なくともAdobeは、業界標準としての地位の強さが背景にあったことを鑑みて、参考にしていただければと思います。

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